理論的には、企業の出張者に対して出張先で観光を楽しむ「ブリージャー(出張休暇)」の許可を与えることは、企業と出張者の双方にとってメリットになります。ブリージャーを許可することは、仕事に対する満足度を大きく向上させるだけでなく、出張者が出張先の街を散策し、クライアントの文化に対する理解を深めることで、ビジネス上の人間関係をより深めることにも繋がります。
しかし実際には、ブリージャーは少々複雑なものになりえます。経費はどのように処理されるか、出張はどの時点で休暇に変わるのかといった判断しづらい問題以外にも、ブリージャーという施策を取り入れるにあたって、カバーすべき二つのポイントがあります。それは、安全配慮義務と忠実義務です。
安全配慮義務とはもちろん、出張者が出張中に安全で快適に過ごせるために危機管理計画を実施するという企業の責任を指します。忠実義務とは、あまり知られていない概念ですが、企業の利益に相反する出張中の活動や行動は慎む、という従業員の義務のことです。
つまり、会社は出張者に対してどのような責任を負うのか、また逆に出張者は会社に対してどのような責任を負うのかということです。
それでは、出張者が(出張中に)レジャー旅行をはさみ込んだ場合、企業が果たすべき注意義務とは何でしょうか。それぞれの企業がそれぞれの結論を出す必要がありますが、作成されたガイドラインは出張者に対して明確に伝えておく必要があります。
最低限、緊急事態が起きたら、出張者と連絡を取り、居場所が特定できるよう、企業側は出張者の全旅程(ビジネス期間およびレジャー期間におけるすべての旅程)を把握しておかなくてはなりません。また、出張者自身で保険に加入したり他の予防策を取ったりできるよう、レジャー旅行の部分についてどのような補償が受けられるのかを開示しておくことも必要でしょう。
企業がブリージャーに関連する安全配慮義務の問題に取り組む際、恐らく難しい論点に直面することになるでしょう。例えば、出張中の旅行者が観光をしている時に緊急事態が起きたら、会社はどのような責任を負うのでしょうか?そして、もしその緊急事態が飲酒運転や激しいスポーツの事故など、出張者自身の無謀な行動にある程度起因していたとしたら、企業側の回答は変化するのでしょうか。
忠実義務の導入
企業は、出張者が出張中に行う活動がレジャー要素を含んでいるか否かに関わらず、高リスクで命に関わる活動、あるいは会社の評判を損ねるようなものに関しては、明確な境界を作るような忠実義務のルールを設けるべきといえます。そして、これらのガイドラインを出張規程の一部に定めるとともに、従業員にサインしてもらうことで自身の役割に納得し、同意してもらうようにすべきでしょう。
確かに、 ブリージャーの目線で見る場合は特にそうですが、忠実義務の境界を定めることは人事的な観点から扱いが難しい問題です。その一方で、企業としては、出張者が、自分自身あるいは会社の評判に害を及ぼすような危険な行動をしないようにしたいでしょう。しかし、どのように出張者の自由時間の行動を制限するのでしょうか?そして、モラルの独裁者と見られずにどのように実行するのでしょうか?
そこで安全配慮義務の再登場です。企業が出張者の安全と快適さを守るための手段として、このような境界を設定しているのだと分かれば、出張者はもっと簡単に受け入れてくれるでしょう。
研修の一環にする
経験の浅い出張者、特に、飛行機で各地を飛び回ったり、バックパック旅行をしたりという経験は豊富でも、ビジネスでの旅行の経験は少ないミレニアル世代の旅行者に、出張中、特に社会的規範が異なる特定の地域において、高リスクの行動をとることの危険性について研修を通じて教えると良いでしょう。
安全配慮義務および旅行のリスク管理に関する研修に関連づけても良いでしょうし、オンラインで受講や、ビデオ視聴、またはワークショップの参加でも良いでしょう。あるいは、自社のセキュリティチームや旅行のリスク管理を行う業者から誰かを招いて、議論をリードしてもらうのでも良いでしょう。
また、ワークショップで現実に起きたことからの教訓を紹介したり、危険な行動が従業員や会社に与えた影響について説明したりといった内容を含めるのも良いでしょう。あるいは、ちょっとしたゲームのようにアレンジを加えた様々なシナリオを紹介した上で、それぞれの状況下で自分ならどうするかを従業員に問いかけることもできます。
研修の中で一つだけ欠かせないトピックがあるとすれば、過剰なアルコールの摂取です。特に、慣れ親しんだ場所以外では、飲み過ぎは暴行から窃盗まであらゆるトラブルを引き起こす可能性があります。その他に関係するテーマとしては、見知らぬ人との交流を受け入れることの危険性です。
最後に、忠実義務のガイドラインを作成する際に考慮すべき事は、出張者は、出張中にプライベートな時間を楽しんでいる時でも、次の点を忘れてはならないということです。一つは、仕事が目的でその地に渡航したということ、もう一つは(ほぼ)会社の費用で旅行している時はその会社を代表している身分であることを踏まえて行動すべきだということです。
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